なんかごめんなさい。
「チャグムよ。これはどうしたことかな」
「まったくですね兄上」
「なにやらこの半熟春夏冬『蛇足々』(はんじゅくあきない『へびそくそく』)とかいうおちゃらけたホームページにお越しいただいたお客様が1万人となった記念と聞いて、こうして馳(は)せ参じたわけなのだが。あの世から」
「まったくですね兄上。って。え? あの世? 俺も?」
「どうしたものか。1万を記念せよといわれても、ほとほと見当がつかない」
「いやあの兄上、俺の生死は」
「とりあえず、『守り人』アニメに出てきた数字を、片っ端から1万に置き換えてみようか」
「ええ。名案です兄上」
「第一話:用心棒バルサ。『ヨゴに来るのは1万年ぶりか……』」
「浦島太郎すぎます兄上」
「『そなたが救う、何人目の命じゃ?』『1万人目の命にございます』」
「メモリアルすぎます兄上」
「第二話:逃げる者 追う者。バルサ、水田のあぜ道を行く。リュックサックを提げたチャグムを先にやり、夜空を見上げて『1万月……!?』」
「イクラみたいなんだろなぁ。空。根拠ないけど」
「第三話:死闘。ジンの記憶。鼻血ブーでゲロ放射の大惨事野郎に、のん気なセレブかぶれのぷちチャグム『叱られたのか?』『遠慮するでない。余は1万個もらった』」
「タマゴボーロだって1万個持てんし。てか兄上、ジンの形容が悪意にまみれてませんか?」
「優しいなチャグムよ。自分はさておき部下を配慮するとは」
「え。ありがとうございます。って、俺さておき?」
「10話くらい。ここらへんにくると、狩人レンジャーンのコードネーム全部判明」
「レンジャーン?」
「モン ジン ゼン タガ スン ライ ヒョク ウンバ」
「ウンバ?」
「1万の意味だ」
「あいつら1万もいるんですか!?」
「いるんだよチャグム。窓の外にもいる。窓の中にもいる」
「中にも!?」
「金魚鉢の裏にもいる。コケの隙間にもいる。実は冷えたジュースのコップに水滴がつくのも狩人ウンバの仕業だ。あなどるな。ヤツは常に霧吹きを携帯している」
「戦慄すべき社会の闇ですね。今の今まで知りませんでした」
「そうだろう。何を隠そうこのわたしこそウンバだ」
「心底知りたくなかった……」
「げふげふ。わたしの命は残り少ない―――託さなければ、このスピリットを。ウンバネクスト。君が次のウンバだ」
「ウンバネクストって俺ですか」
「とんで第25話:宴。卵が孵(かえ)りそうなチャグムが、ラルンガの大群に立ち向かうバルサ&犬畜生どもに向けて決死の叫び。『俺には卵を見捨てることも、ヨゴ1万の民を見捨てることもできない!』」
「人口がバージョンダウンしています兄上」
「さて。とりあえず羅列してみたが、なんの進展も見せないな。建設的とはいいがたい」
「ええ。建設されてた信頼関係とか、なんか心の柔らかい部分が崩壊したような気はしていますが」
「実にいい。まさに、破壊の裏に創造ありという格言の体言」
「その言葉が体現される時って芸術家の自暴自棄かテロリストの言い訳かどっちからしいですから、そうやって感じ入るのは50パーセントの確率でデンジャラスですよ」
「テロリストといえば、チャグムはこんな話を知っているかな?」
「知りません」
「ならいい」
「いいんですか?」
「いいはずがないだろう。うすらとんかちかね弟よ」
「うう。申し訳ありません兄上」
「実は『守り人』シリーズの中で最も委員長チックな性格かつ役回りと自称している私だが、なぜか眼鏡があてがわれるのは常にタンダばかりという厳然たる事実が存在しているのだよ」
「テロリストは?」
「ファンの妄想にテロリズム☆」
「キャッチコピー?」
「疑問があるかね?」
「あんたには無いのか」
「あるぞ」
「あるんだ」
「『段違い』と『ケタ違い』と『格が違う』は、実力的にどれが一等賞なんだ?」
「あれ? そんな疑問について話してましたっけ」
「いや。眼鏡とタンダとペキンダックについてだ」
「ペキンダックはうそでしょ」
「ちっ」
「まあ確かに俺も、ファンサイトの皆々様が『守り人』学園と称して、保健医タンダというステキ眼鏡を捏造しているのは知っています」
「病弱&目立たない美形&『コンタクト? そんな、目の中にモノを入れるなんて……』の三拍子揃った私を差し置くとは、恐らく神は私を見捨てたに違いなかろう。ゴッドもそろそろ代替わりの時期だな。伝説の神殺し:メトロノーム撲殺拳を伝授しなければ。君に」
「俺に!?」
「安心するがいいチャグム。伝授してくれるのは、四十八の殺人メトロノームが仕掛けられた洞窟の最奥におわす、なんかそれっぽいアレだから、君が大好きな兄上は毛筋ひとつダメージを負うことはないのだよ。大丈夫。見た目ただの古ばっちい壁のくせに、分かりやすいヨゴ語で話してくれるから」
「参考ネタ元を類推してお聞きしますが、兄上って何歳でしたっけ?」
「嫁入り前の乙女に歳を聞くもんじゃないわよ」
「あんた誰だ」
「チャグムよ……なげかわしい記憶力だね。まぁとりあえず眼鏡をかければ察しはつくだろう。ほら。うっふげふごほ、せきで眼鏡がズレる―――え? コンタクト? そんな、目の中にモノを入れるなんて……」
「そのせりふ、マニアック過ぎませんか?」
「マニアックと言えば、チャームポイントは足首」
「眼鏡関係ないし」
「実は足首に掛ける」
「眼鏡を!?」
「ああ。もうわたしに残されているのは、魔女っ娘デビューの道のみ……」
「娘」
「眼鏡っ娘に見切りをつけたわたしの華麗な転身。とりあえず格好から入ろう。フードに小動物とパンチラでいいかな?」
「あんた自分の股間にぶらさがってる2パーツを何だと思ってる」
「夢と希望だ」
「どっちが夢でどっちが希望ですか」
「そんなことはどうでもいい。すかぽらちんきかね弟よ」
「ああ。申し訳ありません兄上。ぶっちゃけ病院行きません?」
「大袈裟な。ここ数カ月生理が来ないだけだぞぅあわてんぼ」
「いいええ。もっと窓が小さくて、ドアに外からカギがかかる、ホワイトな内装の診療科にかかりましょう」
「そう言えば『守り人』の実写映画化の話はどこへいったのだろうね?」
「どう言えばそんな話がわいて出るんですか?」
「やはり見どころはメトロノーム撲殺真拳」
「真拳!?」
「ヨゴとカンバルの国境を抜ける大洞窟。あそこでジグロが三番目の辻を左折していたら、うっかり子連れで伝説になるところだった。<王の槍>の8人の追手の次は、魔王の討っ手である80神将を打ち倒す。最後は最強の敵、八百万(やおよろず)バッファロー」
「増えてません? 倍数で」
「しかもバッファローて。ぷっ」
「あんたが言うんだ。それ」
「そして最終話! 『ああ……雪が降っている……血の雪だ……』」
「どうやって血管を流れるんですか。雪」
「まあそんなモノローグの感じで魔王を倒した後、ジグロは大魔王になる」
「ジグロが!?」
「頭には“大”がつく。あれだ。出世魚」
「魚ちゃうし。魔王」
「そしてン十年後。勇者となったバルサが、大魔王ジグロの前に立ちはだかる! 『帰ってきたか、我が子よ……』『大魔王め、今こそ倒す!』『人間は魔族が人間よりも優れていることを恐れ、闇深き異界へ封印したというのに、お前が立ちはだかることに何の意味があろう―――今なら間に合う。今こそ、我と共に人間を滅ぼし、悠久の平和の礎とならん!』『わたしはお前を父なんて認めない!』『あい分かった! これも宿命! いざ尋常に勝負!』」
「すいません。お互いの話がカケラも通じてないのに、何が分かったんですか」
「勇者と大魔王はだいたいこんなキャッチボールで会話を進めるのが王道だ」
「キャッチ無理。球速がポルシェだし」
「そしてバルサは、ハートの中にふいに舞い降りたタンダの草葉の陰からの助言によって逆転大勝利。最後はタンダとジグロの墓にMILO(ミロ)を供えて旅に出る」
「死んでタンダ……」
「どうした。おなかでも痛いのかい、チャグム? 男の子はこういった設定にボルテージあげなきゃならないといけないって新ヨゴ憲法に定められているんだよ? 君は自分の股間にぶらさがってる2パーツをなんだと思ってるんだ」
「ええと。夢と希望?」
「なるほど」
〜完〜
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お持ち帰りしたいお方はご一読ください。