もう少しだけ、ジグロについて考えてみますと、DNDDにとって違和感がある時間が存在していることに気付きます。

 それは、バルサをつれて逃げた直後、です。

 ジグロは<王の槍>の従者となっていることから、<氏族長筋>の生まれであると考えられます。その生まれの少年は、15〜16歳になると全員が王都へと進学し、行儀作法や知識を身につけると記述されています。

 ジグロは16歳で<王の槍>の従者となっています。そして数年後に<王の槍>の地位に就いていることを考えると、16歳の時点から、以降ずっと王都で暮らしていたということだと思います。そして、恐らくそれ以前も、国外に出た経験はないと思われます。<氏族長筋>の傍系であるカッサは15歳ですが、かなり貧乏な彼でさえ、この時点で、まだ父親の出稼ぎについていった形跡が見られないからです(ジナのせりふなどから、出稼ぎに行くのが父親だけであるような描写が見られます)。
 でもってジグロは兄からも「100年に一度」と言わしめる天才として、<王の槍>の中でも突出し、王家の武術指南役にまでちゃくちゃくと出世し続けています。







 あの。


 いくら武術に長(た)けているとはいえ、これはありていに言って、「おぼっちゃま」かつ「もてはやされたエリート」です。








 その彼が、どうしてあんなにもすんなりと逃亡生活になじめたのか。エリートから転落し、身を窶(やつ)しても威風堂々としていられたのでしょうか? DNDDが、やたら違和感を感じてしまう理由がここにあります。


 自分のいた世界の外に出た途端に、とにかく脆(もろ)い―――そんな一面が、バルサをつれて逃げた直後の時間のなかにわずかにも見られないことは、ジグロの置かれていた環境からして、あまりにもありえないことのように思えてしまうのです。





 といっても、そこがそんなに原作において描写されている場面とはいえないので(むしろ狙ったようにすこんと抜け落ちている部分の時間といったほうが近い)、本当は原作でも「脆い」という設定がしてあって、お話としてまとまっていないだけ……という考え方も、できないことはないんですが。どうにも「ジグロは逃亡開始直後からすんなりと完璧に逃亡者に転身した」という印象を受ける機会が多く(アニメジグロの影響が大きいです)、ごにょごにょな感触が出てくるというか。

 王の護衛として外交時に国外へ出ることはあったでしょうが、それはあくまで<王の槍>の任務としてですし。ここで「青い手」などの無頼者のたぐいと関係することもなければ、裏世界だの裏社会だのアンダーグラウンドだのの事情に通じたりそれへの対処方法を身につけたり(頭だけで「学ぶ」のでなく「身につけたり」)することは、ありえないだろうと思います。

 身についているのは<王の槍>としての処世術だけだったはずです。

 王様の寝てる部屋の前で一晩中護衛に立つことはできても、野宿で襲い掛かってくる野生動物の矢面(やおもて)に立つ方法は身についていません。

 ていうか、野宿の仕方すら身についていません。

 もちろん、野宿に必要な物品の揃え方も身についていません。

 腹をすかして泥にくるまって眠るなんて、もってのほか。

 なにせエリートですから、ひととおり頭で勉強してはいたかもしれません。が、エリートですから、それがしょっぱなから「身についていた」とは思えませんし、つけることができたとも思えないのです。

 世間に……しかも異国の世間に放り出されれば、それこそ「どうやったら金が稼げるか」すら見当がつかなくなってもいいくらいだと思います。日本人が韓国でバイトしろって言われたら、例えそこの言葉を多少は学校で習得していたとしても、てんやわんやでしょ。そんな風に、軽く働くだけでも国によって違う、というのは想像するにたやすいですし―――最初に逃げ込んだ新ヨゴ王国は、日本と韓国以上に、カンバルと一線を隔した風習であるようですし。まさか、ジグロが前に新ヨゴで働いた経験がある、というはずもないでしょう(あくまでDNDDの仮説上では)。たとえ新ヨゴで働いたことがあったとしても、それ以外の国で身を立てるには、またその国になぞらった働き方を身に着けなければなりません。用心棒稼業はとうの昔にギルドを設営済み・世界統一規格で採用・雇用方法を設定しており、新ヨゴで働けるようになったらカンバルでもロタでもサンガルでもオールオーケイだぜ! なんて描写も見当たりませんし。

 ではなぜジグロはバルサをつれて逃げた直後から豹変し、こんなエラい強靭で斬っても突いてもびくともしないアウトローなメンタルや考え方を身につけることができたのでしょうか?







 誰かの援助があったんじゃなかなぁと思わざるをえないんですよね。DNDDは。

 それこそ、世の中の酸(す)い甘いだけでなく裏世界だの裏社会だのアンダーグラウンドだのの事情に通じ&それへの対処方法を身につけている+野宿でも追跡をかわすのでも山で足跡を消すのでも、なんでもござれ! な存在の、助力が。






 蛇足ですが、DNDDは、これらを基礎にした話を勝手に考えていたりします。生きててすいません(どんな謝罪だ)。
 実は、マンガのコーナーの「うっかりこんな未来像」のとこにのっけたジグロ・カルナ・トロガイのイラストの下につけた「描こうと思ってたシリアスマンガ」の原本が、これでして。
 しかし、あまりにも高濃度の毒妄想のため、形にすることをためらっていたりします。なんつーか、あんまりにもあんまりかなーと思いまして。完璧にDNDDが捏造したキャラクターも登場せざるを得なくなりますし……いえ、今までにも、露店主・ジグロの友人など、ちょこちょこと出してはいるのですが、あれらはいわば話の引き立て役(モブ・脇役)的なゲストでして、今までのそれらとはDNDDの中で重みが違うのですよ。DNDDは、「守り人」が好きです。でも、好きだっていうのは、好きな対象以外に乱暴する理由にはならないでしょ(ニュースに取り沙汰されるような動物愛護団体とか然(しか)り)。「守り人」の皮をかぶって「守り人」ファンに近づいて、一皮はいだら「守り人」とキャラの名前だけが同じであとは全く違うファンタジーが襲い掛かってきて、がびーんと大ショックというのは……いや鼻血マンガとかさらしてるのにこんなの言えた義理じゃないかもしれませんが、あれはギャグであって、小説には受け流せないウエイトというものが―――
 まあつまり、それくらい思い入れがある部分なんだといういいわけです(しりきれとんぼ)。





 ええと、いかがなもんでしたでしょうか? DNDDの「ジグロ・ムサ」

 とりあえず、ここまでお付き合いいただいた方、重ね重ねありがとうございました。

 まあどの見解も、「ちげぇよそんな人間なんだよジグロは生まれついてのヒーローなんだよ」と言われれば、「生まれついてのヒーローなんですね」としか答えようがないんですけどね。